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DKK3を標的とした新規口腔癌治療薬の開発

1. 頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)ではDKK3領域(11p15.2)に高頻度にLOHを認める

(Katase N et al. Oncol Res. 2008)
 

頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)の発生と進展に関わる癌関連遺伝子については不明な点が多い。細胞のがん化は、がん遺伝子の活性化、がん抑制遺伝子の機能低下などが蓄積した結果として生じると考えられる。

我々はHNSCCにおいて特異的に欠失する染色体上の領域を検索するため、LOH解析を行い染色体の1p, 2q, 4q, 7q, 9p, 10q, 11p, 19pなどで高頻度にLOHが存在することを報告してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

これらのLOHが高頻度に存在している領域から、我々は11p15.2領域のDKK3に着目した。DKK3を含む領域に

マイクロサテライトマーカーをデザインしてLOH解析を行ったところ、57%の症例でLOHが認められ、DKK3がHNSCCの発生と進展に関わる重要な遺伝子である可能性が示唆された。

しかし、臨床データとの相関では、DKK3領域にLOHを有する患者は有意にリンパ節転移が少なかった。また、overall survivalが有意に短かった。DKK3遺伝子はがん抑制遺伝子とされているが、HNSCCではLOHで遺伝子の発現が低下している方が生存には有利という結果が示された。

2. HNSCCとその前がん病変においてDKK3タンパクは高発現を示し、予後不良因子となる

                          (Fujii M and Katase N et al. J Mol Histol 2011, Katase N et al. Oncol Lett. 2012)

DKK3のLOHはHNSCCの発生に関与する可能性が示唆されたが、その意義には不明な点が多かったため、HNSCCとその前駆病変である上皮異形成(epithelial dysplasia)におけるDKK3タンパク発現の有無を免疫組織

化学で検討した。

正常組織と上皮異形成では、DKK3発現は正常口腔粘膜では傍基底細胞から棘細胞の細胞膜に認められた。正常

上皮の基底細胞はDKK3陰性(▲)だが異形成上皮では細胞質にも陽性像が認められた。腫瘍部では基底細胞や細胞質にも陽性像が認められた。以上から、DKK3タンパク陽性率は上皮異形成の程度に比例して増加し、癌では細胞膜から細胞質へと局在が変化することが示された。

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HNSCCでは大多数の症例(76/90症例。84.4%)でDKK3タンパクの発現が認められた。これは、大多数のがんでDKK3発現は低下するという報告と異なっており、さらに臨床データとの相関ではDKK3発現群はdisease free survivalが有意に短く、overall survivalも短い傾向を示した。DKK3陰性群は1例も転移を起こさなかった。

以上から、DKK3はHNSCC特異的に発現し、腫瘍の転移に関わるOncogenic functionを有する可能性」が示唆された。

3. HNSCC細胞でDKK3ノックダウンは細胞の浸潤や遊走を低下させる  (Katase N et al. Oncol Rep. 2013)

DKK3がoncogenic functionを有するかを確認するため、 HNSCC由来細胞下部にDKK3に対するsiRNAを

トランスフェクションしてmRNA発現を抑制し、細胞増殖、浸潤、遊走への影響を検討した。

​siRNAによるDKK3のノックダウンはいずれの細胞においても遊走能と浸潤能が有意に低下したが、増殖への影響は認められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Western blottingではWnt canonical pathway/non-canonical

pathwayともに変化がなく、DKK3ノックダウンによる遊走や

浸潤の低下はWnt signal以外の経路を介した変化であることが

示された。

結果からは、DKK3がoncogenic functionを有するという仮説が

支持された。

4. DKK3の過剰発現はAktを介してHNSCC細胞の増殖・浸潤・遊走を増強する

  (Katase N et al. Oncol Res. 2018)

DKK3遺伝子機能解析のために、Gain-of-function実験と

してHNSCC細胞にDKK3遺伝子を過剰発現させ、影響を

検討した。すでにDKK3遺伝子を発現しているHSC-3細胞に

DKK3発現プラスミドを導入して発現量を増大させると、

細胞増殖、遊走、浸潤の全てが有意に増大した。

ヌードマウス皮下への移植でも、DKK3過剰発現細胞は

有意に大きい腫瘤を形成し、Ki-67 indexも高かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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関連するシグナルについてwestern blottingで検討すると、Akt, c-junのリン酸化増加を見出した。

Aktの阻害剤であるLY294002をDKK3過剰発現細胞に加えると、DKK3による細胞の悪性度増加は全て打ち

消された。

以上から、DKK3はHNSCCではAktを介して腫瘍の悪性度を高めることが強く示唆された。

5. DKK3のノックダウンはAktのリン酸化を低下させ、HNSCC細胞の増殖・浸潤・遊走を抑制する

  (Katase N et al. Int J Oncol. 2019)

HNSCC細胞にDKK3遺伝子に対するshRNAを導入し

DKK3 stable knock downモデルを構築してその影響を検討した。

DKK3遺伝子を発現しているHSC-3細胞にlentivirus vector を

用いてDKK3に対するshRNAを導入、安定的にDKK3発現を

ノックダウンした細胞(HSC-3 shDKK3)を作製した。

 

DKK3 stable knock downでは細胞増殖、遊走、浸潤の全てが

有意に低下した。ヌードマウス皮下への移植でもDKK3ノック

ダウン細胞の腫瘍径は縮小し、Ki-67 indexも有意に低かった。

DKK3ノックダウン細胞のmicroarray解析と

pathway解析ではPI3K/Akt/mTOR pathwayの

関与が示唆された。

Western blottingでも、PI3K, PDK1のリン酸化低下、

p38MAPKの発現低下が認められた。

DKK3ノックダウン細胞に再度DKK3発現プラスミドを

導入すると細胞増殖・遊走・浸潤は全て回復し、Aktの

リン酸化も増加した。

以上から、DKK3はHNSCCではAktを介して腫瘍の悪性度を規定する可能性がより強く示唆された。

6.CKAP4はDKK3の受容体であり、抗DKK3/CKAP4抗体はHNSCC細胞の増殖・浸潤・遊走を抑制する

  (Katase N et al. Oral Dis. 2023)

 

DKK3がAktの活性化を介して腫瘍細胞の悪性度を規定する

ことが示されたが、その過程ではDKK3が何らかの受容体を

介してAktを活性化していると考えられた。

しかし、DKK3の受容体はこれまで報告がなかった。

Kajiwaraらは、2018年にDKK3を高発現する食道扁平上皮癌に

おいてCKAP4がDKK3の受容体として機能することを報告した。

ここから、HNSCCでのDKK3/CKAP4発現と、DKK3/CKAP4

axisの抗体による阻害が治療に有効かを検討した。

免疫染色でDKK3/CKAP4発現を検討し、臨床データとの相関を検討すると、DKK3はoverall survivalに対する

後不良因子、CKAP4はdisease-free survivalに対する予後不良因子であることが示された。

DKK3/CKAP4に対する抗体をHNSCC細胞に投与すると、Aktのリン酸化と細胞の増殖、浸潤、遊走が全て有意に

抑制された。

 

以上から、DKK3/CKAP4はHNSCC治療の有望なターゲットとなる可能性が示唆された。

7. DKK3の機能ドメインを抑制する相補性ペプチドはHNSCC細胞の増殖・浸潤・遊走を抑制する

  (Katase N et al. Cancer Cell Int. 2022)

HNSCC細胞ではDKK3がAktの活性化を介して腫瘍細胞の悪性度を規定する。そしてその阻害により腫瘍を制御

できる可能性が強く示唆されている。

DKK3によるAkt活性化の過程では、分泌型DKK3が受容体を介してAktを活性化する経路と非分泌型DKK3が細胞内でAktを活性化する2つの経路が考えられた。従って、DKK3をターゲットとした創薬実現には、DKK3と

エフェクタータンパクの間の相互作用を阻害することが必要である。そこでDKK3機能ドメインを同定し、これを阻害する相補性ペプチドを開発することとした。

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まず、DKK3が機能を発揮するために必須となる機能ドメインの同定を行った。機能ドメイン候補として2つのcysteine rich domain (CRD1, CRD2)に着目、これらを削除したdeletion mutant発現プラスミドをHNSCC細胞に導入したところ、DKK3によるAktのリン酸化、細胞の増殖・浸潤・遊走の増加にはCRD1, CRD2の両方を同時に阻害することが必要であることが示された。

DKK3と他のDKK familyタンパクのアミノ酸配列を比較することで、CRDの中で機能の発揮に重要と考えられる

アミノ酸配列を同定、この部位に結合してタンパクの機能を阻害する相補性ペプチドをデザインした。

このペプチドとDKK3のモデルをRaptor Xで作成してClusPro2でドッキングシミュレーションを行い、最も

スコアの良い組み合わせを選別した。

 

このペプチドをHNSCC細胞に加えたところ、100nMという低用量でAktのリン酸化とそれに伴う腫瘍細胞の増殖・浸潤・遊走を有意に抑制することができた。さらに、ヌードマウス背部皮下に移植した腫瘍に対してペプチドを注入すると、腫瘍細胞の増殖を有意に抑制できることも確認した。

 

以上から、DKK3の機能ドメインを標的とした相補性ペプチドによる腫瘍制御が可能であることが示された。

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